MONSTER 7巻『大人になったら面白いマンガ』

 

Monster (7) (ビッグコミックス)

Monster (7) (ビッグコミックス)

 

 

MONSTER・7巻

 ファンならばこの巻が一番好き、という人も多いだろう。いつもだいたい1巻に3バージョンくらいの話が描かれていて、今回はどれも本筋ではないのだがしかし、全ての話の出来がどれも非常にすばらしいのでそんなふうにはまるで感じられないのである。

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    今回の主人公・リヒァルト

 

 のっけから大変な事を語るこの元警官がまちがいなくこの巻の主人公であり、前巻からすでに登場しているのだが、さほど目立つキャラではなかったのだが、もはやこの巻を読んだら忘れられないキャラとなる。

 

 しかし、このリヒァルトの悲劇は、テンマとニナの時と同じなのである。ここまで私の『MONSTER』紹介を読んでくれた読者にならば見当がつくだろう。彼は言う。「あの時、私は、少年の中に見たんです・・・・・この世に存在することを知ったんです・・・・本当の悪が・・・・だから私は・・・私は、あの少年を・・・・・・撃ち殺したんです。」

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  真相は、ニナとテンマに起きた事とは少しちがっている。リヒァルトが殺した少年は実は511キンダーハイム孤児院出身であった。ヨハンは

『彼は実にいい子でした。でも、あの施設で彼がどんなひどい目にあったか・・・そこで、彼の精神がどんなふうに切り刻まれていったか・・・・」と『完璧な男』ヨハンがちくちくと指摘するのである。そしてリヒァルトの心を見抜き、真実を暴くのである。そして冷静さを失ったリヒァルトはとりかえしのつかないことになっていく。

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     ロベルト対ライヒワイン

 

 この2人はそれなりに重要なキャラなのだがまさに脇役同士なので今まで紹介出来ずにいた。左の不気味な男、ロベルトはヨハンの手下であり、ヨハンの言う事なら何でも聞く、という感じだがそれほど心酔する理由がこれである。彼は『何人殺しても国がなくなっても、私の中ではすべてが夢みたいだったんです。でも・・・彼と会ってからちがったんです』と言う。右のライヒワインはリヒァルトの主治医で親友でもある。

 

  ライヒワインは、ロベルトが自分を殺しに来た事を察知し、その後の攻防が最後の見所だが、やはり重要なのはこのセリフであろう。人を殺しても国がなくなっても夢みたいだったと語るロベルト・・・。このようなゾッとする人間がこの話ではたくさん出てくるのだが、彼らは目の前で起こる現実に『生きていない』人たちなのである。だから『いない人間』なのだ。

 

 人を殺す事や国がなくなる事に冷静でいられる人はほとんどいないだろうが、しかしなぜそれがそんなに大変なことなのだろうか・・・?巷ではこの議論がたまに起こる。それは大変だと感じるからなのである。それは誰でもそうなのだ。友人が殺されたと聞けば非常に取り乱すだろうが新聞で読んだ赤の他人が殺された事件は取り乱したりしないしじきに忘れるだろう。

 

  友人と言っても親しさによって悲しみもちがってくるだろう。それは愛情の強さしだいなのである。このように同じ事が起こっても人によってとらえ方は変わってくる。人は誰でも公平でも客観的でもないのだ。だから『完璧な人間』などいないし、そんなふうにはなりえない。

 

 だからこそ人を殺しても国がなくなっても何も感じない、というのはある意味、非常に公平といえる。意味や評価をそこに見つけられないのだ。しかし感覚的にそんなふうにはなれないものである。。だが、ロベルトは511キンダーハイムの出身者であり、そんな人間になることこそが彼の生きる道だったのである。当然、彼はこの世界に生きていて何にも共感できず孤独だったのだ。

 

 しかし、ヨハンがロベルトの心を見抜く事によって彼は自分をわかってくれる人がいた事を発見し、その時彼は自分と世界がつながり本当に自分は生きている、という感覚を手に入れたのである。まさに彼にとっては世界が変わった瞬間だっただろう。ロベルトがヨハンに心酔するのは全く当然の事なのである。