MONSTER 12巻『大人になったら面白いマンガ』

 

Monster (12) (ビッグコミックス)

Monster (12) (ビッグコミックス)

 

 

   ある日のルンゲ警部

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こんなはずじゃなかった・・・

 

 なぜかビールをまずそうに飲むルンゲ警部・・・。強引な捜査がたたって、ついに仕事をほされてしまうルンゲ警部は休暇中である。ふつうならば「休暇!そしてビール!・・・いやー、この一杯のためにがんばってるんだよね!」という人が多いだろう。しかしルンゲ警部は全くそうは見えない。仕事中毒の彼にしてみれば休みなどというものは気の抜けるものであり、気の抜けたビールほどまずいものはないのだ。そもそも彼は休暇をとっているにもかかわらず、休暇中にやっていることといえばやっぱり仕事なのである。そして後に手がかりが得られそうになるととたんに生き生きとしてきて「ビールはやめてコーヒーにしてくれ!」とウェイターに言う。彼にとっては休暇中のビールよりも仕事中のコーヒーなのである!

 

  関係のない話だが、ブランドで有名なシャネル。彼女もまた80代まで仕事をしていたデザイナーであり、「日曜日はキライ。誰も彼も私から仕事をとりあげて1人の年寄りにしてしまう。」と言ったらしいが。そんな彼女は夢遊病にかかり、真夜中に暗闇を相手に服を作り続けていたという・・・。こういう人たちにはオンもオフもないのだ。仕事をしている自分だけが自分なのである。

 

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  『私の思っている人物』とはもちろん、ヨハンのことである。

ここで示されていることがヨハンの行動の全てである。彼は出会う人物を次々とほとんど手当たりしだい殺していく。しかし彼はなぜそのようなことをするのか。それは彼がそのような人間になった理由がそこにあるからである。人は、自分が今の自分たらしめている理由を一番大切にするものである。つまり愛しているのである。それはやめたいと思っていても容易にやめられるものではない。たとえば、太っている人はいつまでも太っている。やせたい、と思っていてもいきなりスリムになったりはしない。同じようにヘビースモーカーだったり、お酒をやめられなかったり、早起きが出来なかったりと誰にでも身に覚えがあるだろう。生きる幸せここにあり♪とばかりに、お酒を飲み、煙草を吸い、好きな物をたらふく食べる。それが良い結果をもたらさない、とわかっちゃいるけどやめられない、のである。ましてもっと根強い問題ならばなおさらである。たとえば言葉がそうだ。「英語を覚えるために明日から日本語ではなく英語を話そう!」と決心してもまず挫折するだろう。すぐに日本語を話したくてたまらなくなるはずだ。あるいは日本語を話せない人ばかりの所に放りこまれれば、『居場所がなく孤独』を感じるだろう。

自分が自分でいられない環境や世界というものに人は耐えられないのである。ヨハンは自分を今のような自分にした環境や世界を作ろうとしているのである。それがどんなに異様なものに見えようと、それは誰もが日常的に行っていることなのである。

 

今回の名シーン

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 自分には母親がいない事を知った少年ミローシュに懸命に訴えかけるグリマーさん。誰にも望まれていないことは生きる意味を失うことと同じである。以前のモンスターの紹介でも書いたとおり、自分というものを成り立たせるには、成り立たせるための誰か、何かを必要とするのである。それを失う事は自分自身を見失う事になるのである。そうなりつつある少年に、生きる意味を与えようとグリマーさんは主張する。彼は自分の子供が死んでしまった時に『悲しいのかどうかわからなかったし今でもわからない・・・』ということを言っていたのだが、今の彼はそのようには見えない。グリマーさんにはこの少年が自分を葬り去ろうとしていることに気がつき、そんなことが起きてはいけない、と思っているからだ。ここでの彼の行動は演技には見えない。この後にグリマーさんは、『おれ・・・今・・・どんな顔をしてる・・・?』と尋ねる。いつも顔の形を作って会話しているのならこんなことは聞かないだろう。テンマはそれに対して『泣いて・・・います』と答える。