MONSTER 10巻『大人になったら面白いマンガ』

Monster (10) (ビッグコミックス)

Monster (10) (ビッグコミックス)

 

  10巻からいよいよ終盤へと向かっていく。しかし、私個人としては9巻以降から

やや勢いも落ち、迷走しているように感じられた。好みの問題かもしれないが。今までは1巻の中に3バージョンくらいのうまく仕上げられた話が組み込まれていたが、今回からはずっと1バージョンの話が続いていく印象がある。

 

今回の深いいシーン

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  こわい事を語るこの老人は、511キンダーハイムの元院長である。もう1人はグリマーという511キンダーハイムにいた男性である。これを見ると、彼ら『モンスター』は社会の犠牲者と言えるだろう。兵士の『エリート集団』を作り出すこと、それが当時に必要とされていた事であり、人間に対する『教育』であったとペドロフ老人は言う。彼は自分のやっていたことはまちがってはいない、実験は成功していた、と言う。そして現在も実験を続行中なのだが・・・しかし、このエピソードは意外な結末を迎える。

 

 今回の迷ゼリフ

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 何というストレートな主張だろうか! たまに浦沢直樹はこういうブラックジョークというか、ギャグを入れる。それが拷問シーンという大変ヘビーな途中なのでギャップで思わず笑ってしまうが。・・・・まあ、人というものは内心こう思っていてもこうは言わないと思うが。

 

 今回の名シーン

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 このグリマーさんというキャラのおかげで紆余曲折しがちな終盤も味わい深くなっている、と思う。浦沢直樹はよく『いい人』キャラを作るのだが、やはりいい人というものは上品すぎて退屈になりがちなのだ。テンマもニナも私はそういう印象を持ってしまっているのだが主人公ってそういうものだよね、ともいえる。そういう意味でもこのグリマーさんは、前向きであり、いい人でもあるが、しかし彼にもいろいろと事情がある、というところが興味深く仕上がっており、読者にとって非常に親切で共感しやすいキャラになっている。それにしてもグリマーさんのこのセリフはこの話に関しては「ん?」と思ってしまう。ふつうにありがちなセリフととらえてもいいのだが・・・このモンスターという話の中では、人間同士のつながり、というものを1つのテーマとしているように見えるからだ。『最後に信じられるならあんた自身』ならばエヴァやルンゲが正しい、と思うかもしれない。しかし彼らはむしろ1つの価値観に縛られすぎているのである。彼らは『刑事としての自分』や『令嬢としての自分』を愛しすぎていてそこから離れられないのである。ただの自分自身のほうは置き去りにしてしまっているのである。

 しかし、最終的にはエヴァやルンゲもそのような自分から離れ、自分としての道を歩き始めていく・・・・。