MONSTER 15巻『大人になったら面白いマンガ』
今回の名シーン
ルンゲに次いで好きなキャラがこのマルティンである。何となくこのやるせない感じが気に入ってしまったのだが本筋ではそれほど重要なキャラというわけでもない。彼にもまた後ろ暗い過去があり、子供のころ、アル中の母親を雪の中、運ぶのがしんどくなってしまい、『もう知らない』とばかりに置き去りにしてしまうのである。ヨハンの弟子と名乗るイヤ~な感じの青年が言う。「あなたは間違ってない。あなたは正しい・・・・・生きる苦悩から彼女たちを解放してあげただだけなんだ。エヴァだって死にたがっているじゃないですか。」と言われて、マルティンが出した答えはこれである。この後、彼はエヴァのために戦う・・・。
自分の生き方に限界を感じるエヴァ・・
ツンデレな生き方が衝突ばかり起こし、徐々にヤンデレ化してくるエヴァ・・・。今やエヴァは自分の生き方どころか自分自身であることすら辛くなってしまっている。マルティンに自分を殺すように要求までするが、拒否され『いっしょに逃げよう』といわれ、『君が駅で待ってるのが幸せとマルティンは言っていた・・・』とテンマに言われると、泣きくずれてしまう。そして今までの自分と決別するかのようにヨハンを殺すために銃を手にするまでになるのである。
『めのおおきなひと くちのおおきなひと』によればこれもまた一つの生き方に行き詰まったために新しく悪魔と取引したに過ぎないともいえるが・・・・。
これが物語の面白さ・・?
私は個人的にこのシーンがずっとひっかかっていた。ずっとこの年までマンガを読み続けてきた理由がまさにこれだったのである。よく「そのマンガ面白い?」というやりとりをするが、マンガって面白いことが大事なんだろうか・・・?と漠然とした疑問がいつもあった。それなら矢継ぎ早に事件が起こって銃撃戦で激しく打ち合い、という息つく暇もない展開、というものがうけるはずだが(こういう面白さもあるが)こういうハリウッド映画はけっこう退屈である。筋書きとか事件とかはむしろ本当の面白さへとつなぐための口上である気がする。
この男のセリフを読んだ時にこれだ!と思ったのだがまるでこれは良くないことであるかのようだ。おそらくは自分が住んでいる世界を忘れてしまう、ということが良くないのだろう。そもそも童話というファンタジーは動物がしゃべったり空を飛んだりとおよそありえないことが当然のように起こる。そこでは自分の常識はストップして違う世界の法則を受けいれることが前提である。そうすれば日常の自分とは切り離される。『これが本当の自由だ』とはそのようにいつもの自分から離れていくからであろう