MONSTER 11巻『大人になったら面白いマンガ』

 

Monster (11) (ビッグコミックス)

Monster (11) (ビッグコミックス)

 

今回の名ゼリフ

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  『信頼関係は名前や経歴を知って生まれるもの・・・』それは、その人が何者であるかを名前や経歴が現している、と思うからである。どこの誰なのか、何をしてきたのか、何をしているのか、それがその人であると。それが自分が生きている世界の本人の証明書のようなものだからだ。しかしこの若き好青年の刑事は名前も知らない女性に言う。「君にはこんなに何でもしゃべれる!」と。愛には名前も証明書もいらない、と言っているかのようだ。

 

今回の深いい話

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いつも笑顔のグリマーさん

 

  ちょっと怖いこのシーン。いつもニコニコしているこのグリマーさんというキャラは、読者にも割と共感しやすいのではないかと思うが、しかしこのセリフを読めば、グリマーさんは笑ってもいないし、楽しくも幸せでもないのだということがわかる。つまり彼は笑顔になるような感情というものを知らないのだ。『これは笑っている顔の形を学んだものだ』と彼は言う。これを読むと読者はこのグリマーさんにまるで共感できなくなるだろう。そして彼がまるで正体不明のモンスターのように感じられるかもしれない。それは私たちが笑顔を浮かべるような感情を言葉にするまでもなく、幸せなものだとわかっているからである。「作り笑い」という言葉があるがしかし、グリマーさんが浮かべるそれは単なる作り笑いではとうてい及ばないほどの作り笑いだ。そんな人間にはたいていの人は共感することは難しい。共感できない存在は怪物のように見えるのである。

 

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   このテープの声の主はヨハンである。これは人間がどうやって自分が何者であるかを認識する興味深いシーンでもある。周りに何もないときに人はどうやって自分が何者であるかを知るのだろうか。もし、周りが真っ白で何も見えないような世界であったら・・・。何も見えないなら人は自分に目があることがわからないかもしれない。しゃべる相手がいなければ口から声を出すことはあっても言葉をしゃべることはないだろう。自分のそばに誰かがいるというのは非常に重要な事なのである。自分が確かめられる世界がなければ人は自分を認識することもできない。世界がなければ自分もまたいないのだ。自分ではない誰かがいなければそもそも自分を認識することもできないのである。その誰かの記憶が奪われるというのは自分の存在そのものを奪われると同じであり、死ぬのと同じ事なのである。