唯一、すごいと思った映画『地獄の逃避行』

 

地獄の逃避行 [DVD]

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 「何これ?!」と思ってしまった映画である。いい意味でである。

私は映画というものはあまり好きじゃない。正直言ってマンガの方がよっぽどいいと思っている。映画というものが文化として世間ではマンガよりもずっと高い評価を得ているが、私はいつも『映画はあれだけの予算と俳優を使っておきながらこんな出来ならペンと紙だけで感動を生むマンガの方がずっと優れている』思っていたし、今でも思っている。

 

 しかしこの映画は全くお手上げである。未だに謎がとけない。何が面白いのかまったくわからなかった。なのに夢中で最後まで見てしまうのである。話自体はよくあるもので好き合っている恋人同士の仲を、父親に反対されてしまい、その父親を殺して逃げる、という話である。

 

 しかしこの映画の驚くべきは話ではなく、その演出といえる。そもそも父親はかなり早い目の段階ですぐに殺されてしまい、「えっ?!」と思う。「この後どーすんの?」と思っていると、2人が逃げ続けるのがただ延々と続くだけなのだ。途中、追って来た警官と戦ったりもするが、それくらいの展開があるだけだ。しかしこれが面白いのである!まるでハイキングをしているような軽めの音楽と共に、ただ逃げ続ける2人・・・・。私はこの話を見て、映画というものを誤解していた、と思った。映画は物語の筋や、アクションを追うものではない、と知ったのだ。最も、そんな話は私の知る限りこの一作だけだが。

 

この映画を見ていて観客はずっと『?』と思うだろう。誰に感情移入すればいいのかわからないのである。そもそも製作者側にそういう意図が感じられないのだ。だいたい物語は作者がひいきにしている人物がいて、それがたいてい主人公なので「ああ、この人に肩入れしていればいいのね、ふんふん。」というつもりで観客は見るが、特にそんなものは感じられず、誰もが同じように扱われているのを感じるだろう。

 

 唯一、製作者側が入れ込んでいると言っても良いのは一緒に逃げる女の子であろう。しかし、観客側はこの女の子には共感しにくいのではなかろうか。『面倒なことになった・・・』というのが彼女の感想のように見える。彼の事は好きだけど父親を殺すまでとは思わなかったし、でもこうなった以上逃げなきゃいけないし・・・という感じなのだ。しかしこの彼女の心持ちがこの映画全体の雰囲気である。だから不思議なのだ。だいたいこういう『別に何と言うこともなく・・・・』という物語を面白くするのは難しい。そもそもそれはどこも目指してはいないために観客は何に集中すればいいのかわからず退屈になってしまうからである。

 

  しかしこの話は夢中で見てしまう。そして何が面白いのかそれは私には未だに謎のままである。しかし、現実とはこういうものではないだろうか。映画もそうだが現実の世の中でも筋書きというものはあるが、それは無理やりに作られたものでもある。現実とはそもそも何の関係もないものだ。いろいろなものに振り回され、女の子は男と踊りながら思う『もう二度と無謀な男と一緒にはなるまい』と。もっともだと思いつつも観客は『でも、この女の子、ちょっと冷たすぎないか・・』感じるのではないだろうか。

 

  そしてついに男は逮捕されて死刑になり、女の子は弁護士の男と結婚して終わりである。これほどのバッドエンドでも暗さは全くなく報告書を読むように淡々と進行するのである。

 

  ちなみに多くの人も言っているが、この『地獄の逃避行』という邦題は良くない。この題名から響いてくるようなイメージの映画ではない。