MONSTER 9巻『大人になったら面白いマンガ』
- 作者: 浦沢直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1998/07
- メディア: コミック
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この巻が最高の巻だと私は思っている。ドラマとしてもテーマとしても最高潮に盛り上がってしかも1つ1つがていねいに仕上げられ、どれもがピッタリと融合している。
この巻が中盤のクライマックスになっている。
今回の深いいシーン
吸血鬼と呼ばれる事を喜んで受けいれれば吸血鬼のような怪物になれる・・・。何と恐ろしくも不可思議な話だろうか。しかし511キンダーハイムの孤児院で育った子供たちはまさにそのように『怪物のような』人間に育ったのである。このテーマは昔ながらのものではある。『環境が人間を作る』というものである。しかし、この言葉は単純にとらえられやすい。人間はスイカとちがって四角い箱に入れても四角くはならないのである。『強くなれ!賢くなれ!』といってもその通りになるとは限らないのである。だからこそ、浦沢直樹のこのような言葉が斬新に感じられるのだ。今までのマンガでは、そのように育てた結果、グレてしまったという単純な筋書きだけの話だったのである。その人の内面で何が起こっているのか・・・というところまでは踏み込めなかったのだ。生きるとは説明ではない。生きるとは実感する事を抜きに語ると上から目線で語るだけの底の浅いものになりかねない。
この話最大のポイントとなる童話
これがヨハンが涙を流した童話『なまえのないかいぶつ』である。どこかの国に本当にありそうなほどの出来である。相変わらず意味深いセリフを平易な言葉で表すので読者にはわかるのにわからない、というもどかしく謎めいた気持ちになる。このなまえのないかいぶつとは果たして何者か。これはただの人間ではないだろうか。名前が欲しくなる、というのは自分が何者であるかを求めている、ともいえる。親は子に『愛』とか『明』とか希望のもてそうな名前をつけるものである。それは何はともあれ幸せになってほしい、とか希望の持てる人生で、と思うからだ。何であれひたすら賢くミスを犯さずルンゲのような立派な警官に、とはまあ思わないだろう。そのような人間は親が子にもとめるようなものではないだろう。それは愛情が第一に大事、という発想ではないからである。
今回の名シーン
会場が炎に包まれる、この話の最も盛り上がりの場面でもある。この場面について今さら解説をするまでもないだろう。誰もが自分が一番大事なのである。だからこそ他人はさしおいても我先に逃げようとする。それだけ自分を、自分の命を愛しているのである。言うまでもなくこのドラマが最大の山場であり、中盤のクライマックスにもなっている。初盤のクライマックスにくらべても、こちらの方がずっといい。テーマが深く絡んでくる上に、初盤では出てこなかったヨハンもそれなりに活躍しているし、ロベルトとテンマ、ニナと役者もそろって盛り上がった末にそのまま終盤に入る。