洗礼 『大人になったら面白いマンガ』
洗礼 文庫版 全4巻
なぜか最も奥の深いテーマを展開しているのはホラー作家なのである。とりわけ楳図かずおはこの年代のマンガ家とは思えないほどテーマも展開も斬新で驚きを禁じえない作品がいくつもある。
ただ、楳図かずおには非常に大きな欠点がある。ホラー作家にありがちなことだが、年代のせいか、本人のセンスなのか表現が大げさすぎて時にギャグマンガに見えてしまうほどだ。もっとも大事な場面で「ジャーン!!」と大きなドラが鳴っているような感じである。演出がヘタすぎるのである。とてもマンガ家とは思えないほどだ。マンガ家とはたとえ中身がからっぽの話であっても(失礼)演出だけはうまいものである。
あと、このマンガは2回読むことをオススメする。だいたい読み返すと矛盾やアラがめだって、1回目に面白く読んだ話でもがっかりすることが多いけれど、この話は2回目に読むと「よくできてるわあ・・・」と感心してしまう。
もとは美しい女優だった母親が年老いて醜くなり、美しい娘になってもう一度人生をやりなおしたいと思う話である。そして自分の娘を大事に大事に育て上げ、いずれその身体をのっとろうというホラ~な展開につづいていく。しかし、この話の肝心な点は全体にただようホラー臭ではなく、母と娘というテーマなのだ。
この話の主人公は娘の方で、小学生なのだが実写映画では気をつかったのか中学生になっている。このように、主人公は子供なのだが、おそらくこの話は子供のころは筋書きの面白さしか理解できないのではないだろうか。
普通に読めば、この話は母親が自分の脳みそを娘のものととりかえてもう一度人生をやりなおすというちょっとしたホラーを楽しむ話しにすぎないのだが、途中で、事態の異常さに気づいた登場人物の教師が「人間の脳の移植などできるはずがない」と言いだしたところから、脳手術をした医者は果たして誰だったのか、というところからこの『洗礼』という話のテーマが浮かび上がってくる。
楳図かずおは、抑圧された心理から来る異常事態というテーマからよく作品を描くが、『虫の家』『耳』『おろち』『神の左手、悪魔の右手』などが私的にはオススメである。
ここで作中の名ゼリフ
『いびつな者は自分でそれを感じることができない。そしてそれを感じた者がいびつにされる!狂った世界の中でただ1人狂わない者がいたとしたらはたしてどちらが狂っていると思うだろう?』
それにしてもなぜこの作者はどうでもいいところをやたらと大げさに描き、重要なセリフなどは小さめに描くのだろうか。この辺があまり理解されず、重要視もされない所以なのだろうか。