日出処の天子 『大人になったら面白いマンガ』
日出処の天子・文庫版・全7巻
私はこの作品を名前だけは知っていたが、長い間、読むのをさけていたフシがある。というのも作者の山岸涼子の短編をいくつか読んだことがあったのだが、面白いと思った例しがなかったのである。「何だか中途半端な話しだあ・・・」という印象が多かったのである。
しかし、よけいな遠回りをしたのを後悔した。この作品はまぎれもなく傑作である。タイトルの示すとおりこれは、聖徳太子の話だが『歴史ものはちょっとねえ』と思う必要はない。これは歴史物という顔のまさに少女マンガである。
主人公の聖徳太子こと厩戸(うまやどの)王子が、女嫌いのため同じ男である蘇我毛人(そがのえみし)に恋をするという、基本的には少女マンガによくあるタイプのお耽美な恋愛ものなのだが、そこに歴史のドラマを入れながら、日本的なホラーっぽい雰囲気を楽しむという話である。
先に紹介した楳図かずおの演出とは、まさに真逆で、静かな緊張感の中に、恐怖の存在を醸し出すのがバツグンにうまいのである。特に、『疫神(えきしん)』という死神のような神が、人が死ぬときに現れるシーンは小さいコマに描いてあるとは思えないほどゾッとする迫力で秀逸の出来映えである。筋書き自体も非常に小さな伏線をはって大きな悲劇へ向かわせる予感を読者に漂わせたりして、雰囲気作りが大変にうまいのだ。
これにすっかり病みつきになって、山岸涼子の他の作品を読んだりもするのだが残念ながら『やっぱりほかはちょっと中途半端だよなあ・・・』と感想はあまり変わらなかったのである。以前よりはこの作者が何がやりたいのかわかったのだが。しかし、たまに発見する『あっ!これは面白い!』というのを探し求めて結局、今回も買ってしまったということをくり返すのだけど。