MONSTER 5巻『大人になったら面白いマンガ』
MONSTER・5巻
犯人を追う、という本筋は変わらないが、新しい展開に入っていく。話の主要なキャラクターがそれぞれ独自に動きはじめていく。
この巻で新たに加わる主要キャラクターになるのが、このカンニング男、現在は心理学者のルーディである。このキャラは、ルンゲ警部に似ており、やはり仕事の虫であるために奥さんに逃げられている、という設定である。
彼は『トップでいないと気のすまない男』と紹介されているが、しかしこのエピソードを読めば彼は本当はトップとは言えないのがわかる。つまり彼にとっては実力でトップ、ではなくてトップである自分、のほうがより大事なのだ。結果の方に自分を合わせてしまうためにこのようなルール違反に走ってしまうのである。実際に実力の方が大事と思えばカンニングという不正な手段に頼ることはできないだろう。・・こういうところを人間味とみるべきか。ルーディは十分有能な人間だが完璧ではない、というようにも聞こえるのである。
今回の名シーン
両親の仇に銃をむけるニナ!
この話が今回のメインである。両親を殺した実行犯を見つけ、その男とのやりとりが山場なのだが、実際には男の側から話が始まるので、事が始まるころには男の方にも意外と共感しており、この場面にはハラハラなのである。お互い同じ人間なのだという、いつもながらのうまいやり方で巧みに場を盛り上げている。ニナのこのセリフは1巻で紹介したテンマの『あんなヤツ死んだ方がマシだ』を連想させるのである。
どこまでも犯人を追い続ける警官の鑑ルンゲ警部!
このエピソードはルンゲ対テンマの場面である。ルンゲ警部はテンマを一連の事件の犯人と思っており、その点で彼はまちがっているのだが、しかしほとんどの読者が気づかないのではとも思うのだが、理屈の上では彼は決してまちがってはいないのである。この話には「2人の人格」という言葉がたびたび出てくる。ルンゲ警部の考えでは『ヨハンはテンマのもう1人の人格であり、本当はいない男』なのである。テンマが『あんな男死んだ方がマシだ!!』と言った時にそれを聞いていたヨハンは『恩返し』に殺し『望み通りにしてあげたんだよ』というのである。つまりあれはまぎれもなくテンマの本心だったといえる。完璧な男ヨハンはそれを正確に見抜き実行したのである。ゆえにあれはテンマの犯行、と考えるルンゲは正しいのである。この巻ではないが彼はこうも言う。何の痕跡も残さない完璧な犯行・・「そんなことができるとしたらそいつは人間じゃない!悪魔だ。この世にそんなものはいない。だから我々に逮捕できない犯人などいない!」そして犯人をどこまでもターミネーターのように追い続けるのである・・・・