秘密・6巻・清水玲子の最高傑作・ネタバレあり
個人的に最も不満な話である。
今までのレベルの高さを思うと『え〜』と思ってしまった。もちろん、充分面白いし、他のマンガ家が描いていたら、むしろ感心してしまっただろうが。
犯人も被害者もともにコンビニの店員
P9
コンビニで働いている店員が、同じコンビニで働いているという同僚にメッタ刺しにされて殺されるという事件が起きる。
犯人の郁子(いくこ)
P54
そして犯人の郁子は自殺する。
そのため、彼女の脳を見る事になり、第九の捜査が始まる。
ちなみにこれは第九の初期の話という設定になっており、今回、青木くんは登場しない。
P103
そこに現れたのは、美しい自分、幸せな世界だった。犯人の郁子(いくこ)は何度も自殺未遂を起こし、幻覚を見ている間は幸せだったのだが・・・
P113
幻覚を見ている時は、まわりの人たちまでやさしく作り替えられているのだが、そうでない時は苦しいばかりの時が続く。すでに郁子の母は亡く、介護の必要な父親の面倒を見ながら働く日々にストレスをつのらせていくために次第に幻覚を見るまでになったのだが・・・。
助けようとした彼だったが・・・。
P125
彼女が幻覚を見ている生活を送っているのを知った同僚の彼は、治してやろう、と思ってしまう。しかしそれは追いつめられた彼女にはすでに耐えがたく、『この先はもういらない』と破滅への道を選んでしまう・・。
今回の幻覚というネタ、いつか使うだろうと思っていたし、その際にどういうトリックを使うか、というのを少し楽しみにしていたのだ。
しかし、トリックらしいものもなく、犯人も最初からわかっているために、今までのむしろ複雑すぎるストーリー展開にくらべると『何で?』とすら思ってしまう。何しろ幻覚の話はすでにいろいろ出て来ており、しかしそのネタをメインにもってこないことに感心していたのだ。しかし今回メインに持ってきたにもかかわらず、それとトリックを結びつけるわけでなく、そこから捜査員に錯覚を起こさせるわけでなく、特に何もない。
犯人の悲壮感は充分に伝わってくるので、そういう情感的な面では説得力があるのだ。この作者はそういう表現が大変にうまい。だが、この『秘密』シリーズはそこに事件ものならではのトリックが加わることで、よりいっそう読み応えのある面白さが加わっていると思うのだが。