大人になったら面白いマンガ『カリフォルニア物語』

 

カリフォルニア物語 全巻セット (小学館コミック文庫)

カリフォルニア物語 全巻セット (小学館コミック文庫)

 

 

カリフォルニア物語・吉田秋生

 

 大人になったら面白い・・・といったって、べつに子供の頃に面白いと思ったって全然かまわないのだが。しかも、この『カリフォルニア物語』は作者の吉田秋生が20歳のころに連載を始めたそうだから、決して大人でないと、というわけでもないのだが、そうは言っても子供の頃に読んで面白い、と思うにはあまりにも救いのない物語だろう。

 

吉田秋生といえば、「バナナフィッシュ」でしょ、「吉祥天女」でしょ、と言われればそのとおりなのだが、あの二つの話は主人公が怪物的なほどスーパーヒーローで、それを楽しむ話なのだが、この話は、やっぱり絶望的な舞台でそこを等身大の主人公ががんばる、というのを楽しむ話である。

 

 でも、青春ってこういうものかも、とふと思う。どうにもならなくて、放り出したり、ケンカしたり、ふらっといなくなったりと、何も解決できないのに時間ばかりが過ぎていき・・という感じで。

 

 この作者は静かなセリフに情緒感をにじませるのがバツグンにうまく、それによって物語全体の迫力を底上げしているものでそういうセンスが好きな人にはオススメである。

 

ここで作中の名ゼリフ

「ママはこうも言ったわ。“おまえはきれいな金髪をしてるし器量もいいから今に女優かモデルになれるよ” おとぎ話を二十二の年まで信じてたわ・・・」

「ママの言うことはほんとだぜ。元気だしなって」と主人公が言う。

「ーねえ。まだおとぎ話を信じててもいいのかしら。」

「いいさ。もちろん」

「もう三十になるのよ・・・。あたし」

このマリアンは全くの脇役でここしか出番らしいものはないのだが、ヒモ男になぐられる毎日で、この後、自殺する。本筋と関係のないシーンなのだが、ここがこの話全体を象徴しているように見える。

 

そしてもう1つ。主人公の恋人がキスする時に「今さえよければ、すべていいのよね・・・」と言うのだが、ここには青春特有の明るい刹那主義のような感じは全くなくて今はせめて幸せなのだからそれでいいわよね、という希望にすがりたいような気持ちを若い強がりで「今さえよければ・・・」というところが何とも沁みるシーンである。

 

 そんなわけで、これは青春ものなのだが、どう見ても人生に疲れきった中年の話にみえるのである。余談だが吉田秋生は今現在、いかにも青春ものといった感じのシリーズを描いているが、何となくこの時代のころのアクが抜けてしまったような感じで・・

 

 『ああ〜アクがぬけちゃうと深みがぬけたような感じで、面白くなくなるんだよな〜。』と私などは思うのだが、だいたい安定した状態に入るとマンガ家はアクがぬけてきて、面白くなくなる、というのが私の独断と偏見である。

 

 それにしても、若い頃に疲れた中年のような話を描いて、今は明るい青春ものを描いているというのは、逆のような気もするが、年齢とかではなくその時は深刻な精神状態かどうか、なのかとも思う。

 

 ちなみに、この単行本はおそらく現在ではおそらく手には入らないだろう。現在では、マンガ文庫で復活している。